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東京高等裁判所 平成11年(ネ)6098号 判決

控訴人(選定当事者)(原告) X

選定者 別紙選定者目録のとおり

右訴訟代理人弁護士 高橋勝

同 岡田泰亮

被控訴人(被告) 株式会社日本興業銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 星川勇二

同 緒方義行

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  東京地方裁判所平成一一年(リ)第四五五一号債権配当事件につき、平成一一年八月三一日作成された配当表のうち、被控訴人への配当額が四二四二万三九九〇円とあるのを〇円に、選定者への配当額が原判決別紙「配当表」に各記載金額とあるのを原判決別紙「変更後の配当表」の各記載金額にそれぞれ変更する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要(前提となる事実、当事者双方の主張)は、以下に付加、訂正するほか、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁一〇行目の「同年」を「平成一一年」と改め、同行の「仮差押え」を「仮差押命令」と改め、五頁六行目の「認諾」の前に「同年四月二八日に」を加え、六頁四行目の「別紙配当表が」を「別紙「配当表」が」と改める。

2  原判決七頁末行の「認諾」の前に「必要かつ十分な」を加え、八頁二行目の「優先」の前に「控訴人(選定当事者)及び選定者に対する」を加える。

3  原判決八頁六行目の次に改行して「結局、控訴人(選定当事者)代理人は、先取特権に基づく執行申立をしておらず、しかも配当要求の終期までに先取特権に基づく配当要求をしていない以上、控訴人(選定当事者)及び選定者らにおいて優先配当を受けることができない。」を加える。

第三裁判所の判断

一  本件では、前記「前提となる事実」1ないし3のとおり、被控訴人が貸金債権を、控訴人(選定当事者)及び選定者が労働債権をそれぞれ被保全債権とし、赤倉観光ホテルを債務者、新井信用金庫を第三債務者として、同ホテルの同信用金庫に対して有する預金債権に対して行った各仮差押えが競合したことから、同信用金庫が右預金を法務局に供託したというものであるから、右供託は弁済供託に該当し、供託金自体も仮差押解放金としての性質を有するにとどまるから(民事保全法五〇条三項)、右供託には配当加入を遮断する効果はない。

しかし、前記「前提となる事実」4のとおり、その後、控訴人(選定当事者)及び選定者が前記ホテルを被告とする労働債権等の請求訴訟において取得した認諾調書を債務名義として前記供託金の還付請求権に対する債権差押命令(強制執行)を申し立て、同差押命令が前記供託所である法務局に送達されたものであるから、右差押命令が法務局に送達された時点で、前記供託が執行供託(民事執行法一五六条)に転化し、この時点が配当要求の終期(同法一六五条一号)ということになる。

二  右事案の経過によれば、控訴人(選定当事者)及び選定者らが労働債権に基づく先取特権を根拠に配当における優先権を主張するためには、右配当要求の終期までに担保権の存在を証する文書を執行裁判所に提出して先取特権に基づく配当要求をするか、または、これに準ずる先取特権行使の申出をしていなければならないというべきである。

しかし、控訴人(選定当事者)及び選定者らが、本件で右配当要求をしていないことは明らかであり、また、先取特権による執行申立をしていないことも明らかである。控訴人(選定当事者)は、同人らによる本件債権差押命令(強制執行)の申立てが、その実質において先取特権に基づく担保権の実行申立と同視できると主張するが、民事執行では強制執行と担保権実行の手続が截然と区別されており、各申立てにおいて、それぞれの要件審査が執行裁判所によって行われるものであるから、当初、強制執行として申し立てられたものについて、後日、当事者における解釈によって担保権の実行であったものとするというように、申立て及びそれに引き続いて進行している執行手続の根本的性質を解釈によって変更できるというのでは、執行裁判所による右要件審査の省略を是認することになり、さらには、手続の確実性を著しく害することになるから相当でない。そもそも、控訴人(選定当事者)及び選定者の主張によれば、同人らは代理人弁護士に執行申立に関する法律事務を委任し、申立ての要件の面からも、当初の執行申立の段階で、すでに強制執行と担保権の実行のいずれでも選択できたというのであるから、一旦、任意に強制執行を選択しながら、配当要求の終期後に、その手続を担保権の実行に変更することを求めることは認められるべきではない。また、その場合、執行申立時における控訴人(選定当事者)及び選定者の主観がどのようなものであったかや、執行裁判所が申立書及び添付書類等から当該債権者の債権の実質がいかなるものであるかを了知し、又は了知し得たかという点は、控訴人(選定当事者)及び選定者が代理人弁護士を通して明確に強制執行を選択し申し立てている以上、単なる事情に過ぎず、前記結論を左右する事由とはならないというべきである。

右のとおりであるから、控訴人(選定当事者)が本件配当手続において、先取特権を根拠とした配当の優先権を主張することはできない。

三  そうすると、控訴人(選定当事者)の本件請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 沼田寛)

〈以下省略〉

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